開催レポート

行き詰まる漁業の未来を変えたい!ペプチド養殖による環境に優しい安定的な食の確保へ

ペプチド養殖を実現するための革新的ペプチド高効率生産プロセスの開発/上田 真澄(三洋化成工業株式会社)

プレゼンテーション概要

三洋化成工業の上田真澄さんは、水産業の課題を解決へ導くペプチド養殖を実現するための、ペプチド高効率生産プロセスの開発について発表しました。上田さんの注目した課題は、従来の水産業の限界。飼料や水質管理をベースとした養殖には限界がきており、環境の変化による病害虫からの感染症リスク、環境ストレスによる不作、成熟・産卵不良など多くの不安要素があるといいます。一方、生体に本来備わっているペプチドホルモンはストレス耐性や収量・品質にポジティブな効果をもたらすことが知られています。上田さんは、ペプチドによる養殖は、安定的な食の確保と環境の調和により持続的な社会の実現に貢献できると話しました。

ペプチドの有用な生理作用として、特にサケ類に絶大な成長効果を発揮することや、絶滅が危惧されるウナギの完全養殖に効果的であること、甲殻類の淡水化ストレスの緩和にも作用することなどを挙げました。類似する事業は遺伝子組み換えやゲノム編集ですが、上田さんはこれらについて、自然界でそもそも起こりにくい操作を強制的に行う遺伝子組み換えや、それほどではなくても一部の消費者から不安の声の上がるゲノム編集と比較して受け入れやすい手法であると優位性を説明。魚をペプチド液に浸漬するなど簡便な操作で有用な機能を引き出せることも強みであると述べました。

新規性および革新性について、飼料や医薬品など従来の水産資材では代替できない機能であること、分解されて残存せず環境汚染の懸念が少ないこと、先行例がなく大きな市場を開拓できる可能性があります。一方で生産コストの高さや、微生物によって分解されやすいことなど現状では課題や障壁もあり、これらを解決すべく現在進めている研究開発内容や方法論について説明を行いました。事業化した場合の経営効果についてはサーモンを例に「現在国内業者は、世界的大手と比較して種苗代や餌代がかさむことで苦戦しているが、ペプチド養殖で成熟・成長促進効果を得られればそれらの費用を抑え、高利益・高収益型事業へ転換できる」と述べました。さらに「2025年までに採算性の取れるペプチド生産およびアプリケーションの検証を行い、26年にプレ販売、27年から量産化に取り掛かり事業を軌道に乗せる」とロードマップを示しました。

審査員講評

審査員の株式会社ユーグレナ代表取締役社長・出雲充さんから「なぜ水産分野でチャレンジしようと考えたか」と質問があり上田さんは「社では先に農業分野で研究開発を行ったが、環境変化の影響を強く受ける水産分野にも強く望まれていると考えた」と答えました。アグリビジネス投資育成株式会社取締役代表執行役・松本恭幸さんは「激しい気候変動の中で生態系を維持しながらいかにタンパク源を確保するかという挑戦であり、世界的な広がりのあるアイデアだと思う」と講評しました。

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